現場で使える!産業保健師が知っておくべき事後措置基準値設定プロセス

こんにちは!産業保健師の永松希望です!

産業保健師の皆さん、健康診断後の事後措置に悩むことはありませんか?

特に事後措置基準値の設定方法については、「何を基準にすればいいのか分からない」「どのようなプロセスで決定すればいいのか」というお悩みをよく耳にします。

実際に、産業保健師1年目の方からこのようなご相談をいただきました。

産業保健師1年目

産業保健体制を手探りで構築中です。健診判定そのままだと受診勧奨対象が多くなるため、独自基準を設けるべきか迷っています。

永松希望

1年目での体制構築は、しんどいのではないかと感じました。ご自愛ください。おっしゃるように、会社独自の基準を作成した方が良いと思います!具体的な基準設定やプロセスが分からず悩ましいですよね。

今回は、事後措置の目的を知り、事後措置基準値の設定方法について具体的なプロセスを紹介します。

著者について
永松希望(ながまつ のぞみ)

永松希望(ながまつ のぞみ)

  • 新卒から産業保健師ひと筋16年(産業医科大学 産業保健学部卒)
  • 産業保健体制の立ち上げ支援4社/育成プログラム約20名に提供
  • 実務相談・転職相談 のべ50名以上
  • IT・製造・小売・物流・金融・調剤など多業種で産業保健サービスを提供中

基礎から実践まで、“できる産業保健師”を育成!

目次

健康診断の目的と事後措置の意義

一般健康診断(定期健康診断、海外赴任者健診、特定業務従事者健診など)の主な目的は、適正な配置を行うことです。
これは、過労死の防止や特定業務への適正配置を実現するため、健康状態の把握や作業環境および作業条件に伴う健康障害の早期発見を目的としています。また、労働安全衛生規則第61条に基づき、健康状態が明確に悪化している場合には「要休業」として療養が必要であるとの判断を行い、就業上の措置を講じることも重要な役割です。

そのため、事後措置も「適正配置」の履行および「就業上の措置」を判断するために実施されます。

参照 はじめての嘱託産業医活動 労働調査会

事後措置とは?

事後措置とは、健康診断実施後の措置を指す言葉で、法律用語の略語です。
事後措置といったり、健診事後措置と言います。

健康診断実施後の措置

労働安全衛生法第66条の5には、次のように明記されています。

(健康診断実施後の措置)
 労働安全衛生法第66条の5 
 事業者は医師または歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの措置を講ずるほか、適切な措置を講じなければならない

事後措置の流れ

健康診断の結果をもとに、医師などから意見聴取(労働安全衛生法第66条の4)を行い、面談などを機会として職務適正評価および就業措置・支援を行います(労働安全衛生法第66条の5)。

永松希望

勘違いしやすいことが、保健指導=事後措置ではないです!
事後措置は、配慮が必要な従業員の就業措置や適正配置を講じるもの。
その過程で個人への支援として保健指導を行うものであり、保健指導=事後措置ではないので要注意!

事後措置の全体フローと3つの対応の違い

事後措置は、健康診断の結果を受けてから就業判定・対象者の抽出・各種支援・報告までの一連の流れで構成されます。全体像をまず把握しておくと、それぞれの業務の位置づけが明確になります。

事後措置と聞くと「何から手をつければいいの?」と感じる方も多いのではないでしょうか。まずは全体の流れを図で確認してみましょう!

フローを見ていただくと、事後措置にはいくつかの対応が含まれていることがわかります。ここで混乱しやすいのが「保健指導(保健師面談)」「産業医面談」「二次検査受診勧奨」の3つの違い。実はこの3つ、目的も根拠法令もそれぞれ異なります。1年目のうちにしっかり押さえておきましょう!

安衛法66条の4
優先度:高
産業医面談
就業判定
目的
就業判定・意見聴取
実施者
産業医
対象
判定保留・就業制限
主な内容
就業可否の判断・産業医意見の提示
安衛法66条の7
優先度:中
保健指導
保健師面談
目的
生活習慣改善・行動変容支援
実施者
産業保健師
対象
通常勤務・保健指導要
主な内容
生活習慣改善サポート・経過観察・健康保持増進のための専門的助言と援助
健診結果措置指針
要確認
二次検査受診勧奨
受診案内
目的
医療機関での精密検査
実施者
産業保健師・衛生管理者・事業者
対象
通常勤務・二次検査要
主な内容
受診案内・受診結果の確認

事後措置における産業保健師の主な役割

事後措置における産業保健師の主な役割は以下になります。

事後措置における産業保健師の主な役割
  • 事後措置の実施・管理
    • 健診で異常所見が見つかった場合には、再検査受診や医療機関受診の勧奨、産業医への意見聴取、その後の経過観察や職場配置転換等の事後措置に関与します
  • 集計・分析・改善提案
    • 健診結果全体の集計や健康データの傾向分析を行い、職場全体や部門ごとの差異を把握し、職場環境改善や健康増進施策の企画立案に役立てます
    • 労基署報告書の作成を行い、労基署へ提出します。
  • 産業医や社内関係者との連携
    • 必要に応じて産業医、衛生管理者、人事労務部門と連携し、より適切な就業判定や健康管理が行える体制を整えます
  • 事後措置業務の評価、改善提案
    • 今年度の事後措置業務の課題抽出→改善提案。
      • 課題抽出のポイント:健康ハイリスク者数推移、受診勧奨実施率、業務フロー、事後措置工数の増減等。
    • 昨年度の事後措置業務の改善後の評価。

なぜ事後措置の基準値が必要なのか?

事後措置の基準値とは、健康診断結果に基づいて受診勧奨や健康支援が必要な対象者を明確にするための会社独自の基準です。この基準が適切に設定されていないと、

  • フォローが必要な従業員の抜け漏れが発生する
  • 無駄なフォローが増え、保健師の負担が大きくなる
  • 産業保健活動のPDCAを回すことができない
  • 属人的な対応になる

といった問題が生じます。適切な事後措置基準値を設定することは、効果的な産業保健活動の第一歩です。

事後措置の基準値を設定するメリット

事後措置の基準値を設定するメリットは、以下の5つがあります!

メリット
優先順位の高い健康ハイリスク者への支援に注力できる
  • 限られた時間やリソースの中で、特にサポートが必要な従業員への対応がスムーズに行えます。
  • 具体例として、健康ハイリスク者(高血圧や糖尿病)といった要注意対象者に重点的な支援が可能となります。
メリット
数値的に毎年の推移や傾向がわかる
  • 設定された基準値をもとに、組織全体の健康状態やリスク要素の変化を定量的に把握できます。
  • これにより、健康施策の成果をデータに基づいて検証することができます。
メリット
数値を設定することにより、成果が把握しやすい
  • 受診勧奨率や健康ハイリスク者の減少率など、具体的な指標をもとに成果を評価できます。
  • 経営層への説明資料作成時にも活用できます。
メリット
属人化を防げる
  • 基準値があることで、産業保健保健師個人の判断によるばらつきを防ぎ、安定した対応が可能になります。
  • 産業保健師が交代した場合でも、基準値を引き継ぐことで業務の継続性が保たれます。
メリット
組織内の合意形成が容易になる
  • 明確な基準があることで、衛生委員会や人事部門とのコミュニケーションが円滑になります。
  • 課題認識が共通化され、健康施策の合意形成が進みやすくなります。
永松希望

事後措置の基準値を作成することは、産業保健活動を持続可能なものにするためにも、必要な取り組みになります!

事後措置の基準値設定のプロセス

次に具体的な事後措置の基準値設定のプロセスを見ていきましょう!

※実際に私が行なっているプロセスですが、所属する会社によってプロセスは異なる場合がありますので、参考までに。

1
マンパワーと稼働日数の確認
1人あたりの対応時間・月の対応可能人数を試算する
2
人間ドック学会の基準値を調べる
業界標準の参考値として活用する
3
他社の基準値を調べる
同業他社や規模の近い企業の基準を参考にする
4
自社の健康課題を健診結果から抽出
有所見者率・年齢層別・部門別に分析し高リスク項目を特定する
5
事後措置項目の洗い出しと基準値の設定(暫定)
数値的根拠をもとに設定。最初は高リスク者のみ・一気に全項目を設定しない
6
産業医へ意見聴取
暫定であることを伝えつつ基準値の妥当性・根拠を説明する
7
衛生委員会・人事労務担当者への説明と決定
目的・運用方法・想定人数と根拠を説明し合意を得る
8
運用開始と見直し
初回レビューは6ヶ月〜1年後・その後は2〜3年おきにPDCAを回す

産業保健師のマンパワーと稼働日数の確認

まず、自身のマンパワーと稼働日数を把握しましょう。基準値を厳しく設定しすぎるとフォロー対象者が増え、対応しきれなくなり、産業保健業務が滞る事態が発生します。

ポイント:
1人あたりの対応時間の目安を設定(例:面談は1人30〜60分)
・1カ月に対応可能な人数を試算
例えば
・週2~3日の場合は、事後措置の基準として、血圧・血糖・産業医指示の方のみ対応
・週5日の場合は、事後措置の基準として、D判定(要再検査)+がん検診(要再検査)以上を対応 など

人間ドック学会の基準値を調べる

他社や業界標準を参考にすることで、適切な設定が可能になります。日本人間ドック学会などが公開している基準値も重要な参考情報です。

参考リソース
日本人間ドック学会の基準値ガイドライン

他社の基準値を調べる

実際にどんな数値で設定するかは、会社の健康課題によって変わってきますし、「なぜこの数値なのか」の根拠が大事になります。私がこれまで実際に設定してきた会社別の基準値表は、産業保健師ラーニングでご紹介しています。

実際の基準値表・根拠資料は「産業保健師ラーニング」で公開中

ここから先の”そのまま使える素材”は、産業保健師ラーニングで読めます。
・私が実際に設定してきた会社別の事後措置基準値(表)
・基準値設定の根拠にしている参考資料リスト
・産業医に説明するときのコツ(実際の言い回し)
・基準値を見直したリアルなエピソード

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自社の健康課題を健診結果から抽出

次に、自社の健康課題を把握します。健診結果を分析し、リスクが高い項目を特定しましょう。

具体的な方法

  • 健診項目ごとの有所見者率と全国平均を比較
  • 年齢層別、部門・部署別の結果を比較
  • 高血圧や血糖異常などの高リスク者割合を分析
  • 健保からのレセプトデータを参照

必要な事後措置項目を洗い出し基準値を設定

抽出した健康課題をもとに、事後措置が必要な項目を選定します。基準値はまず、暫定で設定しましょう。

設定のコツ
数値的な根拠をもとに設定
・初回は、高リスク者の数値設定はマスト
・一気に、全ての数値を設定しないこと

産業医へ意見聴取

設定した基準値について産業医に意見を伺います。

産業医の意見を反映することで、就業判定を実施する上での視点が加わり、説得力が増します。
※産業医がいない事業所に関しては、産業医へ意見聴取は必須ではございません。50人未満の事業所は、地域産業保健センターなどを利用して、医師の意見を聞くことも良いと思います!

相談するときは、あくまで暫定であることを伝えつつ、基準値の妥当性や根拠を説明するのがポイントです。実際の言い回しなど詳しい説明のコツは、産業保健師ラーニングでご紹介しています。

衛生委員会や人事労務担当者への説明と決定

基準値を衛生委員会や人事労務担当者に説明し、合意を得ます
合意が得られない場合は、合意を得られるまで落とし所を探りましょう!

説明のポイント
・事後措置の目的と運用方法、基準値を説明する
・昨年度からの想定される人数と根拠を提示

永松希望

合意が得られれば、運用開始になります!
運用後は、支援状況や該当者数など定期的な報告をすることがベスト!

運用開始と見直し

運用を開始し、課題があれば基準値を見直します。

初年度はトライアル的な運用で問題ありません。基準値の見直しは、導入後6ヶ月〜1年程度を目安に初回レビューを行い、その後は2~3年おきに見直しの検討をすることをおすすめします。

永松希望

運用の見直しを行うことで、PDCAを回していこう!

まとめ:事後措置基準値の設定を産業保健師がメインとなり携わろう!

事後措置の基準値の設定は、産業保健師の業務効率化や健康支援の質の向上に欠かせません。適切な基準値を設定することで、

  • 健康ハイリスク者への迅速な対応
  • 業務の属人化防止
  • 組織全体の健康課題把握

が可能になります。今回ご紹介したプロセスを参考に、自社の事後措置の基準値を設定してみてください!

永松希望

最初は難しく感じるかもしれませんが、今回ご紹介したプロセスを活用していくことでどんな会社でも通用する産業保健師になることができます!

自社の基準値設定に迷ったら、あなたの会社の状況に合わせて一緒に考えます。
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一緒に成長していきましょう!

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最後までお読みいただき、ありがとうございました!これからも産業保健師としての成長を応援しています!

著者について
永松希望(ながまつ のぞみ)

永松希望(ながまつ のぞみ)

  • 新卒から産業保健師ひと筋16年(産業医科大学 産業保健学部卒)
  • 産業保健体制の立ち上げ支援4社/育成プログラム約20名に提供
  • 実務相談・転職相談 のべ50名以上
  • IT・製造・小売・物流・金融・調剤など多業種で産業保健サービスを提供中
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