現場で使える!産業保健師が知っておくべき事後措置基準値設定プロセス

こんにちは!産業保健師の永松希望です!

産業保健師の皆さん、健康診断後の事後措置に悩むことはありませんか?

特に事後措置基準値の設定方法については、「何を基準にすればいいのか分からない」「どのようなプロセスで決定すればいいのか」というお悩みをよく耳にします。

実際に、産業保健師1年目の方からこのようなご相談をいただきました。

産業保健師1年目

産業保健体制を手探りで構築中です。健診判定そのままだと受診勧奨対象が多くなるため、独自基準を設けるべきか迷っています。

永松希望

1年目での体制構築は、しんどいのではないかと感じました。ご自愛ください。おっしゃるように、会社独自の基準を作成した方が良いと思います!具体的な基準設定やプロセスが分からず悩ましいですよね。

今回は、事後措置の目的を知り、事後措置基準値の設定方法について具体的なプロセスを紹介します。

この記事を書いた人
nanon
永松希望
  • 新卒から産業保健師歴約15年
  • 産業保健師としての企業での活動実績
    • 産業保健体制の立ち上げ支援 4社
    • オンライン健康セミナー 約10回/年
    • メンタル&フィジカルの保健師面談 約30件以上/年
    • 営業職・研究職・臨床検査職・事務職・配達業務職・小売業・物流センター・製造業・金融業・IT企業など様々な職種の従業員に対して産業保健サービスを提供

基礎から実践まで、“できる産業保健師”を育成!

目次

健康診断の目的と事後措置の意義

一般健康診断(定期健康診断、海外赴任者健診、特定業務従事者健診など)の主な目的は、適正な配置を行うことです。
これは、過労死の防止や特定業務への適正配置を実現するため、健康状態の把握や作業環境および作業条件に伴う健康障害の早期発見を目的としています。また、労働安全衛生規則第61条に基づき、健康状態が明確に悪化している場合には「要休業」として療養が必要であるとの判断を行い、就業上の措置を講じることも重要な役割です。

そのため、事後措置も「適正配置」の履行および「就業上の措置」を判断するために実施されます。

参照 はじめての嘱託産業医活動 労働調査会

事後措置とは?

事後措置とは、健康診断実施後の措置を指す言葉で、法律用語の略語です。
事後措置といったり、健診事後措置と言います。

健康診断実施後の措置

労働安全衛生法第66条の5には、次のように明記されています。

(健康診断実施後の措置)
 労働安全衛生法第66条の5 
 事業者は医師または歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの措置を講ずるほか、適切な措置を講じなければならない

事後措置の流れ

健康診断の結果をもとに、医師などから意見聴取(労働安全衛生法第66条の4)を行い、面談などを機会として職務適正評価および就業措置・支援を行います(労働安全衛生法第66条の5)。

永松希望

勘違いしやすいことが、保健指導=事後措置ではないです!
事後措置は、配慮が必要な従業員の就業措置や適正配置を講じるもの。
その過程で個人への支援として保健指導を行うものであり、保健指導=事後措置ではないので要注意!

事後措置の流れ

事後措置は、健康診断の結果を受けてから就業判定・対象者の抽出・各種支援・報告までの一連の流れで構成されます。全体像をまず把握しておくと、それぞれの業務の位置づけが明確になります。

事後措置と聞くと「何から手をつければいいの?」と感じる方も多いのではないでしょうか。まずは全体の流れを図で確認してみましょう!

フローを見ていただくと、事後措置にはいくつかの対応が含まれていることがわかります。ここで混乱しやすいのが「保健指導(保健師面談)」「産業医面談」「二次検査受診勧奨」の3つの違いです。それぞれ目的も根拠法令も異なります。

「保健指導・産業医面談・二次検査受診勧奨って何が違うの?」と感じた方もいるのではないでしょうか。実はこの3つ、目的も根拠もそれぞれ異なります。1年目のうちにしっかり押さえておきましょう!

安衛法66条の4
優先度:高
産業医面談
就業判定
目的
就業判定・意見聴取
実施者
産業医
対象
判定保留・就業制限
主な内容
就業可否の判断・産業医意見の提示
安衛法66条の7
優先度:中
保健指導
保健師面談
目的
生活習慣改善・行動変容支援
実施者
産業保健師
対象
通常勤務・保健指導要
主な内容
生活習慣改善サポート・経過観察・健康保持増進のための専門的助言と援助
健診結果措置指針
要確認
二次検査受診勧奨
受診案内
目的
医療機関での精密検査
実施者
産業保健師・衛生管理者・事業者
対象
通常勤務・二次検査要
主な内容
受診案内・受診結果の確認

事後措置における産業保健師の主な役割

事後措置における産業保健師の主な役割は以下になります。

事後措置における産業保健師の主な役割
  • 事後措置の実施・管理
    • 健診で異常所見が見つかった場合には、再検査受診や医療機関受診の勧奨、産業医への意見聴取、その後の経過観察や職場配置転換等の事後措置に関与します
  • 集計・分析・改善提案
    • 健診結果全体の集計や健康データの傾向分析を行い、職場全体や部門ごとの差異を把握し、職場環境改善や健康増進施策の企画立案に役立てます
    • 労基署報告書の作成を行い、労基署へ提出します。
  • 産業医や社内関係者との連携
    • 必要に応じて産業医、衛生管理者、人事労務部門と連携し、より適切な就業判定や健康管理が行える体制を整えます
  • 事後措置業務の評価、改善提案
    • 今年度の事後措置業務の課題抽出→改善提案。
      • 課題抽出のポイント:健康ハイリスク者数推移、受診勧奨実施率、業務フロー、事後措置工数の増減等。
    • 昨年度の事後措置業務の改善後の評価。

なぜ事後措置の基準値が必要なのか?

事後措置の基準値とは、健康診断結果に基づいて受診勧奨や健康支援が必要な対象者を明確にするための会社独自の基準です。この基準が適切に設定されていないと、

  • フォローが必要な従業員の抜け漏れが発生する
  • 無駄なフォローが増え、保健師の負担が大きくなる
  • 産業保健活動のPDCAを回すことができない
  • 属人的な対応になる

といった問題が生じます。適切な事後措置基準値を設定することは、効果的な産業保健活動の第一歩です。

事後措置の基準値を設定するメリット

事後措置の基準値を設定するメリットは、以下の5つがあります!

メリット
優先順位の高い健康ハイリスク者への支援に注力できる
  • 限られた時間やリソースの中で、特にサポートが必要な従業員への対応がスムーズに行えます。
  • 具体例として、健康ハイリスク者(高血圧や糖尿病)といった要注意対象者に重点的な支援が可能となります。
メリット
数値的に毎年の推移や傾向がわかる
  • 設定された基準値をもとに、組織全体の健康状態やリスク要素の変化を定量的に把握できます。
  • これにより、健康施策の成果をデータに基づいて検証することができます。
メリット
数値を設定することにより、成果が把握しやすい
  • 受診勧奨率や健康ハイリスク者の減少率など、具体的な指標をもとに成果を評価できます。
  • 経営層への説明資料作成時にも活用できます。
メリット
属人化を防げる
  • 基準値があることで、産業保健保健師個人の判断によるばらつきを防ぎ、安定した対応が可能になります。
  • 産業保健師が交代した場合でも、基準値を引き継ぐことで業務の継続性が保たれます。
メリット
組織内の合意形成が容易になる
  • 明確な基準があることで、衛生委員会や人事部門とのコミュニケーションが円滑になります。
  • 課題認識が共通化され、健康施策の合意形成が進みやすくなります。
永松希望

事後措置の基準値を作成することは、産業保健活動を持続可能なものにするためにも、必要な取り組みになります!

事後措置の基準値設定のプロセス

次に具体的な事後措置の基準値設定のプロセスを見ていきましょう!

※実際に私が行なっているプロセスですが、所属する会社によってプロセスは異なる場合がありますので、参考までに。

1
マンパワーと稼働日数の確認
1人あたりの対応時間・月の対応可能人数を試算する
2
人間ドック学会の基準値を調べる
業界標準の参考値として活用する
3
他社の基準値を調べる
同業他社や規模の近い企業の基準を参考にする
4
自社の健康課題を健診結果から抽出
有所見者率・年齢層別・部門別に分析し高リスク項目を特定する
5
事後措置項目の洗い出しと基準値の設定(暫定)
数値的根拠をもとに設定。最初は高リスク者のみ・一気に全項目を設定しない
6
産業医へ意見聴取
暫定であることを伝えつつ基準値の妥当性・根拠を説明する
7
衛生委員会・人事労務担当者への説明と決定
目的・運用方法・想定人数と根拠を説明し合意を得る
8
運用開始と見直し
初回レビューは6ヶ月〜1年後・その後は2〜3年おきにPDCAを回す

産業保健師のマンパワーと稼働日数の確認

まず、自身のマンパワーと稼働日数を把握しましょう。基準値を厳しく設定しすぎるとフォロー対象者が増え、対応しきれなくなり、産業保健業務が滞る事態が発生します。

ポイント:
1人あたりの対応時間の目安を設定(例:面談は1人30〜60分)
・1カ月に対応可能な人数を試算
例えば
・週2~3日の場合は、事後措置の基準として、血圧・血糖・産業医指示の方のみ対応
・週5日の場合は、事後措置の基準として、D判定(要再検査)+がん検診(要再検査)以上を対応 など

人間ドック学会の基準値を調べる

他社や業界標準を参考にすることで、適切な設定が可能になります。日本人間ドック学会などが公開している基準値も重要な参考情報です。

参考リソース
日本人間ドック学会の基準値ガイドライン

他社の基準値を調べる

参考までに、なのんがこれまで設定してきた会社の事後措置の基準値をご紹介します。
※会社の健康課題によって、基準は変わってきますし、なぜこの数値にしているのかの根拠が大事になりますので、あくまで参考までとしておくことをお勧めします。

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