退職は失敗ではない!?産業保健師が知るべき支援の本質とは
こんにちは!産業保健師のなのんです!
メンタルヘルス対応を行っている産業保健師の皆さんにとって、絶対に通る道である「メンタル不調者の退職」。このような出来事を初めて経験すると、多くの産業保健師さんは、心に負担を感じてしまいます。
産業保健師1年目の方からこんなご相談をいただきました。
メンタルで職場復帰した人が先月退職になりました。
なんだか悲しいです。
私も産業保健師1〜2年目の時もご相談者様のような気持ちが芽生えて、「もどかしさ」や「やるせなさ」を感じたこともありました。
産業保健師として、メンタル不調者の休復職者対応を行っていると、必ず年に1回程度は休職満了で退職するケースや復帰後に退職してしまうケースを経験します。
今回は、『メンタル不調者の休職満了ケースや復帰後に退職してしまうケースに対する捉え方』をご紹介いたします。
難しいケースを学び、産業保健師としての支援の本質とはなにかを学んでいきましょう!
退職に対するネガティブイメージを持ちすぎない
退職という選択は、本人にとって次の一歩を踏み出すための大きな決断です。 新しい環境で「自分らしく働ける可能性」を手に入れるチャンスともいえます。 また、組織にとっても、メンタル不調によるパフォーマンスの低い従業員がいることによるチームや会社全体のリスクを低減させることにもつながるケースがあります。
産業保健師が押さえておくべき視点
まず、退職を「失敗」と捉える必要ありません。
メンタル不調で職場復帰をした従業員が退職を選ぶ理由は様々です。
「新しい環境で気持ちを新たに再スタートしたい」、「今の職場では自分らしく働けない」、といった考えを抱えている場合もあります。 退職をすることで、その人にとってより良い未来への一歩となる可能性を考えていきましょう!
また、組織にとっても退職は悪い結果ではありません。 適応が難しい従業員が職場に残り続けることで、組織や同僚への影響が生じることもあります。 退職は、本人だけでなく職場全体にとってポジティブな変化を生み出す一つの手段と考えることができます!
退職は「終わり」ではなく「新たなスタート」
組織全体にとってもプラスになる可能性がある
適応が難しい従業員が居続けることの組織・会社への影響
チームや同僚への影響
メンタル不調によりパフォーマンスが低下した状態で働きつづけている場合、以下のような影響が出る可能性があります
- 業務の負担増加:メンタル不調者が復帰しても十分に業務を遂行できない場合、同僚がその分の負担を肩代わりすることになり、他の従業員に負荷の負担がかかります。
- チームの士気低下:メンタル不調者が復帰してもメンタル不調者への職場のサポートが続くことで、他の従業員が「自分の努力が報われていない」「不公平だ」と感じる可能性があります。これがチーム全体の士気や生産性を低下させてしまいます。
組織の業績への影響
個人のパフォーマンス低下が組織全体の業績に影響することがあります。
- 品質の低下:不調が原因で業務遂行能力が低下し、ミスや作業品質の低下が生じる可能性があります。
- 遅延リスク:予定やプロジェクトの進行が遅れるため、顧客の満足度や信頼に悪影響が生じる可能性があります。
コストの増加
長期的に見て、組織・会社のコストになる場合があります。
- 人件費の非効率:メンタル不調者が復帰しても通常のパフォーマンスを発揮できない場合、会社が十分な成果を得られない状態で人件費を負担し続けることになります。
- サポート費用の増加:メンタル不調者が復帰しても体調の回復が十分でない場合、通院頻度が多いことで通院に対する配慮のための業務調整、保健師面談や産業医面談の費用、管理コストなど、企業が負担するコストが増大する可能性があります。
私が経験した「退職に対するネガティブイメージ」を払拭したケース
会社の風土に合わないケース
会社の行動指針やチームの雰囲気に馴染めず、自分の能力を十分に発揮できなかった方が退職を決意。
→結果:退職後、気持ちがスッキリし、前向きな気持ちで新しい一歩を踏み出しました!
ご本人から「退職をしようと決めました!」っと伺った時の顔が
とてもスッキリとした表情をされていました。
本当に良かったな〜っと思いました!
他責傾向のあるローパフォーマー
休職前にチームメンバーにネガティブな影響を与えていた方が復帰後すぐに退職を表明。
→結果:チームメンバーや上司がほっとし、職場の雰囲気が改善された。
上司からの「安堵感の伝わるメッセージ」が忘れられない。
新しい職場が見つかったケース
上司との相性が悪く、評価されなかったためにメンタル不調を起こして復帰した方が転職活動の末に、年収アップの新しい職場を見つけて、退職。
→ 結果:新しい環境で再び活躍するチャンスを得られた!
復帰後の業務上の配慮期間中は、転職活動をするための期間ではないのになあ、、、、
っという気持ちはあったものの、良かった!
ハラスメントや不正行為を起こしていたケース
ハラスメントや情報漏洩などの不正行為を行っていた従業員が退職。
→ 結果:会社全体のリスクを抑え、健全な職場環境を保つことにつながった。
不自然な流れの退職だったので、退職意向を聞いた後、関係者全員が
ヒヤヒヤ&バタバタしたことを今も覚えています、、、
産業保健師の役割を再認識する
産業保健師の役割は、従業員が自身の健康を主体的に管理できるようにサポートをすることです。
従業員が退職に向かうのは、産業保健師の支援が足りないからではありません。重要なのは、復職や退職という結果ではなく、その過程で提供したサポートが従業員にとってベストであったのかを考えましょう。合わせて、他の従業員への健康支援にも目を向けて、今後どのような価値を提供できるようにしていくのかを考えていきましょう。
本人への自己支援は充分であったか?
関係者支援としてのFBや情報共有は適切であったか?
振り返りのポイント
本人への自己支援の適切さ
- 本人に対して、自立を促す支援ができていたか?
- 支援が本人の依存を助長していなかったか?
関係者への支援・情報共有
- 上司や関係者に対するフィードバックや情報共有が適切だったか?
- 職場全体のバランスを考慮した対応ができていたか?
この2つの視点での振り返りを
行うことが大事!
私が経験した「産業保健師の役割」を再認識したケース
私が、産業保健師1年目の頃は、本人への支援に集中しすぎるあまり、上司や職場の視点を十分に考慮できていなかったことによって、
その結果、本人が保健師や職場の配慮に甘える状況が生まれ、上司も職場も私自身も困る状況になり、本人の自律を阻害してしまったケースがありました。
上司が本人に対してどのようなお困りごとを抱えているのかにも目を向けず、本人のサポートにばかり注力してしまったことで、職場全体で過剰な配慮を行う状況を助長してしまったのです。
やってしまった、、、、
この経験は、産業保健師としての役割を再認識し、支援の質を向上させるための貴重な学びとなりました。
感情を受け入れる
「悲しい」という気持ちを否定せず、まずは受け入れてみましょう。
自分の感情と向き合うことで、その感情がどこから来ているのかを理解できるようになります。
メンタル不調者の退職は、なぜ悲しいのか?
退職を目の当たりにしたとき、多くの保健師が感じる「悲しさ」について考えてみましょう。
この感情には、以下のような要素が含まれています。
努力が報われなかったように感じる
従業員の休復職支援に多くの時間と労力を注いだ結果、退職という選択に至ると、「本人が働けるように皆で支援したのに、、、」と支援の全てが意味がなかったかのように感じることがあります。
休復職支援が不十分だったのではという不安
本人が退職を選択した背景には、「休復職支援プロセスに問題がなかったか」、「どこを改善すればよかったのか」、「もっとできることがあったのではないか」と自分を責め、悩むことがあります。
これらの感情を抱くのは自然なことです。しかし、この「悲しさ」を悲しさで終わらせるのではなく、自分自身の成長の糧にしていきましょう!
私が産業保健師一年目の頃は、「もっとできることがあったのではないか」と自分を無意識に追い込んでいたこともありました。
今振り返ると、そこまで自分を責める必要はなかったと思います!
感情整理の方法
- なぜ悲しいと感じるのか、紙に書き出してみる
- 同じ感情を抱いた他の経験を振り返る
- 自分の成長や学びにつながる部分を見つける
感情を受け入れることで、次の一歩を踏み出すエネルギーが生まれます。
紙にできるだけいっぱい書き出すことがポイントです!
私が経験した休復職者対応で感情が溢れて泣いてしまったケース
フィジカルの問題を抱えて職場復帰された方が、数ヶ月後に退職し、その後、他界されたという出来事がありました。この出来事は、私自身にとってとても悲しい体験でした。
悲しみを受け止めつつ、「この方の支援や対話を通じて得た気づきを
次に生かそう」と決意。
学びの機会と捉える
退職という結果に至った経験を振り返ることで、次回の支援に生かせる学びを得ることができます。どんな経験も、振り返りをすることで成長の糧にしていきましょう。
今回のケースでは、復職支援のどの部分が効果的だったのか、また改善すべきポイントはどこにあったのかを振り返ってみてください。
例えば、保健師面談での保健指導は本人の行動変容を促せたのか、関係者への情報共有の不足や連携時の不具合がなかったか、うまくいった点はどこかなど具体的な支援内容を検討してみると良いと思います。
従業員本人への支援は十分であったか?
上司や組織への支援は十分であったか?
会社のリスクは抑えられたのか?
こうした振り返りを通じて得られる気づきは、次回以降の支援に活かすことができます。支援のスキルを磨き、さらに質の高いサポートを提供できる産業保健師を目指しましょう。
具体的な振り返りのポイント
- 復職支援のどの部分がうまくいったのか?
- 改善できる点はどこだったのか?
- 今後、同じ状況にどう対応するか?
このような振り返りを通して、自分自身のスキルアップにつなげていきましょう。
産業保健師1年目に初めて経験した「メンタル不調者対応」の教訓
当時、20代後半の女性社員を担当しました。その方はPTSDで休職し、復職したのですが、復職した一年後に再休職しました。上司は予兆(急な欠勤の増加)に気づいていたのですが、産業保健師への情報共有がなく、急な休職が発生。
復帰後の体調確認の保健師面談で私が行った本人への保健指導は、
- 本人の話を聞くことを重視
- アドバイスとして「誰かに相談すること」「ストレス解消法を試すこと」など
を提案のみ。本人の考え方がマイナス傾向であることに気づいていながら、体調が良いからと安心してしまいました。
保健指導のスキルもストレス対処への知識も全くない状況で
私自身がいっぱいいっぱいで、
今となっては、本人へきちんと向き合っていなかった気がします。
上司への支援も怠り、上司が欠勤状況を確認していたにもかかわらず、産業保健師へ伝える発想がなかったのは、支援の過程で、こういう状況があれば、産業保健師へ繋いでほしいという情報共有の重要性を伝えられていませんでした。
急な休職がもたらす影響を学ぶ
急な休職は、以下のように会社運営にも大きな影響を及ぼします:
- 人員確保やシフト変更への対応。
- 人件費や予算計画への影響。
学びと次へのアプローチ
この経験を踏まえ、私は、次のような改善点を実践する必要があると学びました。
- 支援を「本人だけ」で完結させず、上司や組織全体との連携を強化すること
- 上司へ、体調不良者への介入のタイミングや情報共有の重要性を積極的に伝えるなどラインケアの知識を普及すること
- 従業員の考え方や行動に深く関わり、具体的な改善案を提案すること
本人だけ支援していればいいわけじゃない!
長期的な視点を持つ
産業保健師の活動は、単に「退職を防ぐ」ことが目的ではありません。短期的な結果に左右されがちですが、産業保健の本質は長期的な視点で考えることにあります。今回のケースが、今後の支援方法を見直す貴重な機会にしましょう。
焦らず一つひとつの支援に向き合うことで、信頼関係を築き、未来の健康支援につなげていくことが大切です。
活動の本質から評価する
産業保健師としての活動は、以下の3つの視点から評価することが重要です。
- 本人の自己管理支援
- 上司・組織への支援
- 会社への支援
例えば、、
復帰手順がわからず不安・・
対策(例):復帰の流れを明記した『休職のしおり』を作成。休職中に安心して過ごせるよう、産業保健スタッフが定期的に連絡を取る。
休職中の給与がどうなるか心配
対策(例):休職前に人事労務担当者が休職制度や給与に関する案内を行う仕組みを整備する。
メンタル不調者への対応を振り返り、産業保健師としての改善点や人事労務上の課題を見つけることが大切です。同じ課題が再発しないよう、具体的な対策を行っていきましょう
焦らず一つひとつの支援に向き合うことで、信頼関係を築き、未来の産業保健活動につなげていくことが大切です。
まとめ
この記事を読んでいる皆さまが感じている「やるせなさ」や「もどかしさ」は、産業保健師として成長していくための大切なステップです。
メンタル不調者の退職は、産業保健師として悲しい経験かもしれません。しかし、それを「学び」として捉えることで、次の一歩を踏み出す力に変えることができます。
- 退職へのネガティブイメージを持ちすぎない
- 産業保健師の役割を再認識する
- 自分の感情を受け入れ、振り返りの機会にする
- 学びの機会にする
- 自分らしく輝く産業保健師を目指して、長期的な視点で支援を続ける
考え方を大切にして、これからのキャリアを築いていきましょう。
応援しています!
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最後までお読みいただき、ありがとうございました!これからも産業保健師としての成長を応援しています。