悪循環を断ち切るアプローチ! 産業保健師向け認知行動療法(CBT)実践ガイド

こんにちは。産業保健師のなのんです。

職場のメンタルヘルス支援を担う産業保健師のみなさん!
「同じ悩みを繰り返す社員さんをどうサポートすればいいの?」と感じる場面はありませんか?
今回のテーマは “悪循環を断ち切るアプローチ”。認知行動療法(CBT)の考え方をベースに、実際の面談で今日から使えるヒントをやわらかくお届けします。

目次

認知行動療法(CBT)って?

認知行動療法は、私たちの思考、感情、行動がどのように影響し合っているかを理解し、それらをポジティブに変えることで問題を解決していく方法です。メンタル不調を感じている従業員に対して、この方法を使うと、思考の癖や行動パターンを整理し、改善するきっかけを作ることができます。

以下の記事で詳しく書いていますので、ご参照ください!

悪循環を断ち切る!メンタル不調者への実践的アプローチ

STEP
悪循環を見える化する

産業保健師としてメンタル不調者に対応する際、最初に行いたいのが「悪循環の見える化」です。具体的には、従業員と一緒に以下の質問を通じて思考や感情、行動を整理します。

メンタル不調を長引かせる最大の要因は、刺激(出来事) → 反応(考え・感情・身体・行動) → 結果がぐるぐる回る悪循環であるため、従業員自身が“自分のループ”に気づけば、変化への意欲が生まれます。

具体的な悪循環の見える化はこちら👇の記事で詳しくご紹介しています!

STEP
セルフモニタリングの活用

セルフモニタリングは、従業員が自分の思考、感情、行動を記録する方法で、改善のヒントを得るための重要な手法です。これにより、日々の気づきが得られ、問題を明確化しやすくなります。

STEP
行動活性化法の実践

行動活性化法は、従業員が「やりたくない」と感じている活動や行動を意識的に増やす手法です。これは、気分の落ち込みを改善するために非常に有効です。セルフモニタリングの活用の効果が少ない場合に行動活性化法へ進むと良いと言われています。

産業保健師2年目

「社員さんの悪循環に気づいてもらうには、どんな支援ができるだろう?」

そんなとき役立つのが セルフモニタリング行動活性化法 の2本柱です。

悪循環に切り込む二大アプローチ①セルフモニタリング

セルフモニタリング― 見える化で“気づき”をつくる

セルフモニタリングは、従業員が自分の思考、感情、行動を記録する方法で、改善のヒントを得るための重要な手法です。これにより、日々の気づきが得られ、問題を明確化しやすくなります。

ねらい:まずは出来事に対する反応(思考、感情、身体の反応、行動)の現状を「見える化」し、ループに気づく

主なツール
  • モーニングページ
  • 思考&行動記録
  • 感情日記
  • トリガーリスト

セルフモニタリングのメリット 3選

メリット
“頭と心の交通整理” ができる

もやもやを言語化 → 頭の中がスッキリ。

メリット
悪循環(刺激→考え→感情→行動→結果)の“現在地”が掴める

どこでループが始まり、どこで加速しているか可視化。

メリット
社員さん自身に “気づきと選択肢” を届けられる

「私は●●で揺れやすい」「××を足すと楽になる」など、セルフケアの土台に。

4つのセルフモニタリング技術と使い方

ツール目的・効果具体的ステップ面談での声かけ例
① モーニングページ無意識の思考や感情を“吐き出す”❶起床後すぐノートを開く
❷3ページ分、手書きで書き殴る(誤字・乱文OK)
「書いてみて意外に多かったワードは? そこにヒントが隠れているかもです」
② 思考と行動の記録思考グセと行動パターンを把握❶1日の出来事を3行メモ
❷“考え”と“とった行動”をセットで書く
「この行動はどんな考えが引き金でしたか?」
③ 感情日記+10段階点数感情の“波”とトリガーを特定❶強い感情が出た瞬間を0‑10で採点
❷直前の出来事をメモ
「点数8以上の場面、共通点はありました?」
④ トリガーリスト揺れやすい状況を把握し予防策へ❶1週間でストレスを感じた場面を列挙
❷思考・感情も簡単に記録
「このリストを信号機にたとえると、赤(高リスク)はどれ?」

書けなかった場合は「1行でも OK 」「写真メモでも良いですよ」と ハードルを下げること

セルフモニタリングの振り返りに使える“パワークエスチョン”

セルフモニタリングをお願いしたあとの振り返りで、次の2問を投げかけてみてください。

自己理解・内省を深める導入質問
なのん

記録してみて、気づいたことや感じたことはありましたか?

気づきの共有にフォーカスします!

悪循環の接点を一緒に探る問い
なのん

気分と行動パターンにはつながりがありそうでしょうか?

悪循環のループを一緒に探り、課題を特定する。

新人保健師がセルフモニタリングをサポートするときの5つのコツ

Point
“うまく書けた/書けない”より“続けた”ことを褒める

文章力や量を評価されるとモチベーションが下がりがち。続けること自体が一番大きな成果なので、まずは“継続”を称賛しましょう。

なのん

「3 行でも続けられたのは大きな前進ですね!」

Point
ハードルをとことん下げる

完璧主義の人ほど“きっちり書かねば”と挫折しがち。記入頻度や書式のハードルを下げると続きやすい。

なのん

「1 行メモでも十分です」「まずは3 日に1 回ペースでOK」

Point
紙やPC画面共有で“ミニ図解”して共有

文字だけのノートは抽象的でピンと来にくいことも。面談時に保健師が矢印や枠で簡単に図示すると、視覚的に“悪循環”が腑に落ちる。

なのん

「ここがスタート、ここが感情、ここが行動…と矢印でつないでみましょう」

Point
成功例は“なぜうまくいったか”を解剖

行動がうまくいった要因(場所・時間帯・サポート・気分など)を具体的に抽出し、次のプランにコピー&ペーストすることで再現性が高まる。

なのん

「夜より朝の方が書きやすかったんですね。次回も“朝イチ”をキープしてみましょう」

Point
専門家・上司と連携をためらわない

明らかな抑うつ・長期化リスクがある場合、保健師1人で抱え込むのは危険。産業医・EAP・所属長と情報共有し、役割分担で安全網を強化。

なのん

「気になる症状が続いているので、産業医とも連携し一緒にサポートしていければと思います」

継続>完璧:続けるハードルを最小化して成功体験を積み重ねる。

見える化>言葉だけ:図示や色付けで“悪循環”をイメージとして共有。

チーム連携>個人戦:重症化リスクは早めに専門職とタッグを組む。

セルフモニタリングは「書く」だけで終わりではなく、

  1. 気づき(本人の内省)
  2. 問いかけ(保健師のパワークエスチョン)
  3. 伴走(続けられる環境づくり)

の3点セットでこそ効果が最大化します。
新人保健師のみなさんが寄り添いながら、“見える化” の力で社員さんの悪循環に光を当て、小さな変化の芽を育てていけますように。

「今日の面談から、1行メモのセルフモニタリングを試してみませんか?」――そんな一言から、サポートの輪を広げてみてくださいね。

なのん

“気づき×問いかけ×伴走”で悪循環に光を当てていこう!

悪循環に切り込む二大アプローチ②行動活性化法

行動活性化法 ― “やる気ゼロ”でも動ける仕掛け

行動活性化は気分が上がるのを待たずに、先に行動を起こす」作戦良い気分をもたらすような行動を増やしていくなど活動や行動のパターンを変化させていき、気分の落ち込みによる行動の諦めや回避的な行動を断ち切るために行う。

なのん

落ち込んで動けない状態から抜け出す強力な第一手になります。

よくある悪循環行動活性化で起きる好循環
落ち込む → 何もしたくない → 行動ゼロ →
さらに達成感ゼロ → もっと落ち込む
小さな行動 → 微細でも達成感 → 気分が1段階UP →
次の行動が取りやすく
ポイントは、気分を“待つ”のではなく “引き上げるレバー” として行動を使うこと。

行動活性化法の具体的な技術とステップ

落ち込みが強いと「やる気が出ないから動けない…」となりがち。
でも CBT では “まず行動 → あとで気分がついてくる” という逆転の発想を大切にします。

技術
快活動リストを作ろう
STEP
“ちょっと楽しい行動” を 30 個書き出す

例:好きな音楽を1曲聴く/職場近くの花壇を眺める/新作コンビニスイーツを試す

快活動リストは、ストレス解消法やストレス対処法と言う表現で書き出してもらうことも効果的!
セルフケア研修でも気分転換の洗い出しとしてやってもらうのもベスト!!

なのん

私は、以下のような4象限表を活用して洗い出してもらっています!
よければ、ご活用くださいませ!

STEP
タグ付け(時間・お金・・場所)で実行しやすさを可視化

「★無料・5分・オフィス内」など

なのん

視覚的に★マークを付けると、“超かんたん”がパッと分かる。

例えば、上記の気分転換ワークシートを活用して、★マークをつけてみることも効果的!

STEP
スケジュールに落とし込む

カレンダーやスマホに 1日1つだけ 入れたり、朝の 10 分、昼休みの5分など “すきま” 時間に予定を入れ、快活動をやれるようにする

快活動リストは、ストレス解消法やストレス対処法と言う表現で書き出してもらうことも効果的!

セルフケア研修でもそのようにしてやってもらうのもベスト!!

技術
回避行動を“小さな一歩”に置き換える

回避行動によって、悪循環を防ぐために、代替行動を準備しておく

きっかけ刺激いつもの回避行動代わりの“一口行動”難易度★1‑5
上司との1on1で指摘を受けるとりあえず黙る①深呼吸→②指摘された部分をどう改善するかを検討する★★
苦手な同僚を見るすれ違いざま無言「おはよう」と一言だけ声をかける
商談前に緊張予定を後回し深呼吸3回+「まず1件だけ電話」★★

回避行動パターンの行動の置き換えワークシートはこちら👇からダウンロードしてみてね!

“完璧行動”ではなく一口サイズにするのがコツ。
難易度★1‑2から始めると成功率が高まり、自己効力感がじわじわ上がります。

新人保健師が行動活性化をサポートするときのコツ

保健師が伴走するときのポイント
  • 代替行動は 相談者と一緒に決定 し “納得感” を持ってもらう
  • うまくいった理由を一緒に分析
なのん

「なぜ今回はできたのか?」「何が助けになった?」を聞き出してみましょう!

成功要因を次の行動計画に組み込むことで自己肯定感アップにも繋がります!

悪循環を断ち切るアプローチの保健師面談ロールプレイ

悪循環を断ち切るアプローチを行なっている実際の保健師面談のロールプレイを見てみましょう!

ロールプレイの流れを見ることで実際の保健師面談での保健指導をイメージできますよ!

なのん

Aさん、今日はお忙しい中保健師面談のお時間をありがとうございます。
保健師面談をお申し込みいただいた際のお悩みが、職場の同僚との人間関係にお悩みで、ストレスを感じているため、それを改善するためのアドバイスが欲しいというご相談であっておりますでしょうか?

従業員Aさん

はい、その苦手な方がいる会議では、動悸がしたり
苦手な方と一緒のプロジェクトに取り組む日の前日は
夜も眠れないんです。

なのん

では、まずどんな時にどんな反応が出やすいか整理してみましょう!

ーーーーーーーーーーワークシートを使って整理中ーーーーーーーーーー

なのん

きっかけと反応を確認しますと、Aさんが1番ストレスを感じるのは、
苦手な同僚と話す瞬間のようですね。
まず避けたくなる気持ちは自然な反応です。
ここを少しずつ変えるために “小さな行動プラン” を
一緒に考えてみませんか?

従業員Aさん

はい…。嫌味を言われるんじゃないかと思ってしまって
黙り込んでしまっています。

なのん

『朝、目を合わせずにでも “おはよう” と声を出すだけ』チャットでおはようございますの挨拶をするだけ』 を試すのはどうでしょう?

従業員Aさん

挨拶だけなら、なんとか出来そうです。

なのん

素晴らしい! 代わりの行動だけでなく、気分が落ちたときの気分転換も同時に入れておくとリカバリーが早まります。
気分転換ワークシートを使って整理してみましょう!

ーーーーーーーーーー気分転換ワークシートを使って整理中ーーーーーーーーーー

なのん

気分転換がいくつか出せましたね!

従業員Aさん

散歩は好きなので、昼休みに5分程度、オフィスの近くの公園まで行って気分転換できたらと思います。

なのん

では、いつ実行するのか具体的なカレンダーに入れてみてくださいね!

現場でつまずいたら・・・よくある質問(Q&A)

実際の現場で悪循環を断ち切るアプローチを実践していくと従業員や相談者から、「できない・・・」「つまづいた・・・」など壁が生まれるのはあるあるです!

つまづきが生じた際のQ &Aをご紹介します!

書くのが続かないケース

従業員

書くのが続かないです・・

なのん

「1行メモ」「写真+ひとこと」で OK と再提案

快行動リストが埋まらないケース

従業員

リストが埋まらないです・・

なのん

完璧に埋める必要はないです!
“五感” :見る・聴く・味わう・香る・動くから発想のヒントを得てみましょうか!

一度失敗し落ち込むケース

従業員

回避行動がうまくいかなかったです・・・
自信がなくなりました。

なのん

①何が起きた?②どこが難しかった?③次のプランBを
設定して、リカバリーしていきましょう!

時間がないという言い訳をするケース

従業員

時間が取れません…

なのん

休憩時間の3分でスマホに入力するだけでも
やってみませんか?

まとめ

セルフモニタリングで “いまの自分” を可視化し、行動活性化で “小さな一歩” を踏み出すサポートをしていきましょう!

産業保健師のみなさん、ぜひ次の面談で――

「この一週間、たった1行でもいいので振り返りを書いてみませんか?」
「今日一日で“★1行動”をどこに入れてみましょうか?」

と、やさしく声をかけてみてください。
社員さんの「変われるかも」が芽生える瞬間を、いっしょに育てていきましょう。

産業保健の実務に関するお悩みがある方は、育成プログラムに参加することで新たな気づきや解決のヒントが得られます。みんなと一緒に成長していきましょう!

産保ゆめUPスクールでは、産業保健師の基礎的な実践力を鍛える産業保健師育成プログラムサービスをご提供しています。

産業保健師に必要なスキルや基礎知識、企業で働く上での考え方を網羅し、実践力を鍛え、産業保健師としての成長と自己実現につながる講座となっています。

一緒に成長していきましょう!

\ 産業保健師のプロになる

最後までお読みいただき、ありがとうございました!これからも産業保健師としての成長を応援しています!

参考書籍



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