産業保健師が理解しておくべき「職場巡視」ガイド

こんにちは、産業保健師のなのんです。
職場巡視は、産業医や衛生管理者が定期的に現場を回り、作業環境・実態・衛生状態を確認して有害リスクを評価し、必要に応じて改善指導を行う法定の取り組みです。産業保健師に直接の法的義務はありませんが、実務では同行して観察・記録・助言などで支援することが一般的。
産業保健師の皆さん――職場巡視について、こんな疑問や悩みはありませんか?

保健師独自のチェック項目や、記録の残し方・活用法が知りたい。



産業医の職場巡視に同行しているけど、保健師として何を見れば良いのか自信がないです。



保健師主導で独自の職場巡視を実施したいのですが、他社の事例はありますか?
本記事では「産業保健師の職場巡視」をテーマに、何を見るかより前に大切な“目的づくり”から、現場で役立つチェック観点、運用上の注意点までをまとめます。はじめての方も、同行中心から一歩進みたい方も、この記事ひとつで“迷わない巡視”にアップデートできます!
- 職場巡視のイメージが持てる。
- 職場巡視の法律面や目的を理解して、巡視に臨むことができる。
- 職場巡視で産業保健師が確認するべき項目が理解できる。


- 新卒から産業保健師歴約15年
- 産業保健師としての企業での活動実績
- 産業保健体制の立ち上げ支援 4社
- オンライン健康セミナー 約10回/年
- メンタル&フィジカルの保健師面談 約30件以上/年
- 営業職・研究職・臨床検査職・事務職・配達業務職・小売業・物流センター・製造業・金融業・IT企業など様々な職種の従業員に対して産業保健サービスを提供
基礎から実践まで、“できる産業保健師”を育成!
そもそも「職場巡視」とは?


職場巡視は、厚生労働省の「こころの耳」では、以下のように明記されています。
職場巡視とは、作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態が働く人に有害な影響を及ぼすおそれがないかを確認します。労働安全衛生規則では、衛生管理者には週に1回、産業医には月に1回の実施が義務付けられています。有害な影響を及ぼすおそれがある場合、健康障害を防止するために必要な措置を講じる必要があります。
参照:厚生労働省 こころの耳
ここからは、職場巡視の法的義務や目的について、整理していきましょう!
職場巡視の法的義務


産業医による職場巡視は、労働安全衛生規則第15条に示されています。
- 原則:産業医による職場巡視は、毎月1回以上行うこと(条件付きで2ヶ月に1回)
- 実施条件:50人以上の労働者を常時使用する事業場
- 記録の保管:法律で明確に定められていません。
事業者から産業医に所定の情報が毎月提供される場合には、産業医の作業場の巡視の頻度を、毎月1回以上から2か月に1回以上にすることが可能。(巡視の頻度の変更には事業者の同意が必要です。)
参照:厚生労働省 産業医制度に関わる見直しについて



会社の体制によっては、衛生管理者が全作業場を週1回以上巡視し、その結果が産業医に共有・対応されているなどの前提がある場合、産業医巡視頻度を隔月に変更している企業もあります(体制の前提が崩れると見なされると、月1回巡視が必要になる点に注意)
産業保健における職場巡視の目的


産業保健における職場巡視の目的は、「職場を知り産業保健活動に活かすこと。その結果、人の健康を守ること」になりますが、大きく分けると以下の2点に集約されます。
- 業務上疾病・作業関連疾患の予防:健康状態に問題のない大多数の従業員が、作業により健康状態を損ねないこと。
- 就業配慮の履行状況の確認:健康状態に問題のある人が、作業により健康状態を悪化させないこと
参照:はじめての嘱託産業医活動 p15職場巡視より
職場巡視は、法令遵守や健康被害の防止の目的を達成する独立した産業保健活動ではなく、5管理(総括管理、作業環境管理、作業管理、健康管理、労働衛生教育)と結びついた活動になります。その視点で職場巡視を捉えていくことが大事です。
会社における職場巡視の目的


会社における職場巡視の目的は様々ですが、以下の観点で整理しています。自社の職場巡視の目的をまずは把握しましょう!
- 法令順守の確保
事業場の実態を現認し、関係法令・社内規程に適合しているかを点検する。→ 労基署対応の土台づくり、監査・委員会への説明責任を果たす。 - 危険源の特定と労災リスク低減
設備・作業・動線・保護具などから危険源を洗い出し、リスクを評価・優先順位づけして対策につなげる。→ 重大災害・労災・ヒヤリの未然防止。 - 健康障害の予防(作業環境×作業管理×健康管理)
暑熱・寒冷・騒音・照度・換気・化学物質・姿勢・反復動作・VDT等を現場で確認し、健康障害の芽を潰す。→ 特殊健診や環境測定の結果と現場状況を突き合わせ、改善へ。 - 早期発見・早期対応
疲労・睡眠不足・メンタル兆候、復職者や高ストレス者の作業実態など“変化のサイン”をいち早く捉える。→ 配置配慮・負担軽減・面談等の一次対応に直結。 - 良い実践の発見と横展開
安全に寄与する工夫・5S・コミュニケーションなどの“強み”も拾い上げ、他部門へ広げる。→ ネガティブ偏重を避け、現場のモチベーションを高める。 - 教育・行動定着の支援
保護具の選定・サイズ・在庫・着用実態、新任者・派遣・協力会社への教育の実効性を点検。→ 必要なリマインド・再教育・表示整備を計画。 - 働きやすさ・多様性配慮の確認
休憩室・更衣室・トイレの清潔性、女性・妊産婦・育児者への配慮、休憩の取りやすさ等を確認。→ 体調管理・定着率・エンゲージメントの向上。 - コミュニケーションと信頼関係の構築
現場の声(困りごと・詰まりどころ)を雑談レベルでも拾い、関係部署と“顔の見える関係”を作る。→ 相談の早期化・改善提案の受け入れを促進。 - データ連携によるPDCA推進
巡視所見を、健診・ストレスチェック・労災/ヒヤリ・教育記録と結び、委員会や定例会で改善を回す。→ 「指摘→担当・期限→次回回収」で前進を可視化。 - 経営への示唆と資源配分の根拠化
改善に必要な人員・設備・時間の根拠を可視化し、経営に投資対効果(損失回避・効率化)を示す。→ 持続的な安全衛生体制の強化。
職場巡視の記録の保存期間について


職場巡視の記録は、法令で一律の保存年限が定められていませんが、会社のリスク管理として、会社で保管期間が定められています。まずは自社の規程を確認しましょう!
原則案:リスクアセスメントの保管期間に合わせて少なくとも3年保存が望ましい。
例外案:発がん性物質を取り扱うなど将来影響の追跡が必要な部門は、作業記録の保管期間と合わせて、30年保存が望ましいと提案。
最終決定は、他の関連記録(作業記録・特殊健診・作業環境測定・人事情報保管期限など)の保存年限との整合性、個人情報保護、保管コストも踏まえて調整しましょう。
現役産業保健師「職場巡視」アンケート


現役産業保健さんへ「職場巡視」への参加の有無をアンケート調査しました。会社の方針によって、参加が必須かどうかが変わってきますので、必ず確認しましょう。
- 何らかの形で職場巡視に関与している人は約85%
- 産業医の巡視に関与している人は約74%
- 保健師主導(独自巡視)を実施している人は約32%
多くの産業保健師が職場巡視に関わっていることがわかりました。





今回の結果は、なのんとしてとても嬉しいです。約3人に1人(約3割)が保健師主導の巡視を実施しており、現場での保健師の価値向上と役割の自律化・高度化が進んでいる兆しを感じました。



産業保健師の独自の職場巡視ってやった方がいいんでしょうか?
保健師が職場巡視を実施するかどうかについて、私(なのん)の考えは以下になります。
まず企業から「産業医巡視に同行してほしい」「保健師として現場を見てほしい」といった要望があるなら、そのニーズに応じて実施すれば十分価値があります。
要望がない場合でも、保健師自身が「解決したい課題」や「達成したい目的」を明確にし、巡視がそれに有効だと判断できるなら、巡視の効果と期待成果を分かりやすく説明し、実施後に結果をフィードバックする――この一連の流れをセットで提案・実行することが大切です!
産業保健師が職場巡視する目的を設定


産業保健師は、職場巡視を行う義務はありません。そのため、職場巡視をする必要がないのですが、それでも「職場巡視に同行する必要がある」、「職場巡視を保健師独自で行いたい」などの場合は、目的を設定し、産業保健師の視点から職場巡視を行っていきましょう。
「何のために、産業保健師が職場巡視を行うのか」
「職場巡視で解決したい課題は何か?職場巡視で解決できるのか?職場巡視以外の方法はあるのか?」
「この職場巡視のゴールは何か?」
を明確に、先に決めておくと、当日の観察・質問・記録・次アクションまで一本の線で繋がります。
- 健康課題の把握と「次の打ち手」を見つける
- 顔の見える関係づくりで、早期の健康相談につなげる。
- 健康ハイリスク者の作業実態(環境・工程・人間関係)を事実で確認する
- 良い取り組みの横展開ネタを見つける(“良い所探し”も重要)
- 巡視や面談では現場のリアルを定期的に捉えやすいため、前回からの変化や季節要因も拾いにいく。
- マイナスだけでなくプラスにも光を当てて、社内展開の材料に。
産業保健師の職場巡視チェック項目


「何を見ればいい?」を迷わないために、目的に合わせて使えるチェック項目をまとめました。以下の点を意識しながら、職場巡視を行ってみましょう!


- 姿勢・反復動作・重量物:長時間の前屈/持ち上げ・運搬の導線/台車の段差
- 暑熱・寒冷・換気:WBGT対策、熱源周辺の休憩・水分ポイント、局所排気の効き
- 騒音・照度・視環境:耳栓の実用、ディスプレイの高さ・反射、グレア
- 化学物質・粉じん:保護具の着用実態、保護具の置き場所・管理状態、手洗い・更衣動線
- VDT作業:イス・机・モニタ配置、休止・小休止の取り方、資料置台



例えば、血糖コントロールが悪く産業医面談対象者が暑熱職場で働いている場合、具体的にはどんな環境で働いているのかを確認するなども重要な視点です。



防災の観点からも机の下にものが置かれていないかも案外重要なポイントです。


- 水分・塩分・栄養:熱中症対策飲料、食堂/売店の選択肢
- 睡眠・疲労:シフトの回り方、残業後の帰宅動線・休憩スペース
- 喫煙対策:分煙導線、休憩の取り方



職場巡視では、熱中症対策飲料の糖度が高く、従業員が過剰に摂取して体重増加につながっているといった状況が見えてくることがあります。



喫煙所の清掃やルールの運用実態を丁寧に確認することで、喫煙者・非喫煙者それぞれの言い分をバランスよく聴取できます。


- 上司・同僚のサポート、職場の雰囲気、裁量感など、従業員へのソフトな聞き取りで兆しを掴む(面談・雑談からも情報が得られます)。
- 高ストレス者の作業実態:実際の工程・役割・休憩タイミング/孤立の有無



集団分析で高ストレス職場の傾向(マクロ)を掴み、職場巡視で現場の実態(ミクロ)を確かめる――この両輪で、的確なアプローチができます。


- 休憩室・更衣室・トイレ:清潔度・混雑度・女性配慮(生理用品・廃棄・荷物置き)
- 洗眼設備・手洗い:使い勝手、補充、表示
- 妊産婦・育児者配慮:負担作業の回避ルール、時短・配置配慮



工場の女性ライン作業者では、生理中にロッカーまでナプキンを取りに行けないケースがあります。トイレ内への生理用品の設置といった配慮は、職場巡視で見えてくる改善点の一つです。


- 保護具のサイズ・在庫・配付動線
- 新任者・派遣・協力会社への衛生教育の実効性(フォロー、言語対応)
- ヒヤリの吸い上げ方法(改善サイクルに乗るか)
- “良い実践”の横展開の仕組み(掲示・表彰・委員会共有)
Q&A よくある質問


産業保健師が職場巡視に抱きがちなよくある疑問に対して、なのんだったらどう考えるのかを回答いたします。
- 保健師単独で巡視しても良い?
-
会社の体制や保健師に求める役割によっては、保健師単独の巡視も可能です。
導入・運用は次の流れがおすすめです。- 関係者と合意:事業所長/工場長・衛生管理者と、目的・範囲・頻度をすり合わせる。
- 運用設計:報告先・改善の回し方(委員会共有など)を決め、巡視結果は常に共有する。
- 産業医と連携:事前に「保健師巡視を実施する」旨を伝え、位置づけと役割分担を明確にしておく(助言や対応が必要な事項は速やかに相談)。
※法定の産業医巡視を置き換えるものではなく、補完的な取り組みとして位置づけるとスムーズです。
- 何を聞けば“現場のリアル”がつかめますか?
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本記事の保健師の職場巡視チェック項目から現場で気になった点や違和感を感じた点を質問してみると良いと思います。職場巡視以外の活動として、面談や昼休み中の食堂での会話、休憩時間の従業員同士の会話なども現場を知るヒントになります。
なのん私は、食堂で新卒同期と昼食をとる際、現場での業務内容や最近のトラブル、忙しさなどを雑談の延長で情報をもらっていました。
- 写真撮影は?
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会社ルールを必ず確認が必要です。産業医の職場巡視の場合、同行している衛生管理者が指摘事項を写真に撮影する場合がありますので、NGではないことが多いですが、個人が特定されない配慮の徹底をしましょう。
- 産業医の職場巡視に同行すると、現場が「また指摘されるのでは」と身構えて雰囲気が重くなります。ネガティブに傾きがちな職場には、どう関わればいいですか?
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先にプラスへ光を当てるのがコツです。巡視の目的を「改善+強み発見」に置き、セットで伝えるのがコツ。指摘が多い職場ほど、小さな前進を見える化して共有すると、空気が徐々に前向きに変わります。
- 他社では職場巡視にチェックリストを使っているのでしょうか。使っている場合、どんなチェックリストでしょうか?
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フォロワー様向けアンケート(2025/8/10)では、41%が自社向けにカスタマイズしているという回答でしたが、サンプルが小規模で、職場巡視に注力できる保健師が限られているため、一般化できる結論には至っていません。
2025年8月10日アンケート調査 - 皆さんは、どのようなテーマや体制で巡視されていますか?
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ご相談者様の現場では、以下のようにテーマを決めて、巡視されており、とても巡視に力を入れられている印象です。一方で他社では、毎月、建物やフロアをローテーションし、標準のチェック項目+前回の指摘事項の改善を巡視で確認する運用が比較的多い傾向があります。また、私が長く勤めた前職や労災の多い製造業or工場では、衛生管理者の巡視や年1回の安全大会での経営層を含た巡視でテーマを決めて、巡視している傾向があります。
まとめ:産業保健師による職場巡視は、「目的」意識を持ってやろう
産業保健師には、職場巡視の責務はありませんが、産業保健師自身が目的意識を持って、職場巡視に臨むことで、マクロ(集団分析や健診分析)×ミクロ(現場実態)で仮説→確認→打ち手へつなぐことができます。
「何を職場巡視で確認するか」は目的が決めます。迷ったら、“この巡視の成果を誰にどう渡す?”から逆算してください。現場に寄り添いながら、価値ある気づきを次のアクションへ。応援しています📣✨
最後に ― 一緒に学び、実践しよう!
ご覧いただきありがとうございました!
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- 受講中に現場で起こっているお悩みをケーススタディとして検討
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最後までお読みいただき、ありがとうございました!これからも産業保健師としての成長を応援しています!


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